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橋本 壮市

柔道家(パーク24株式会社 所属)

http://judo.park24.co.jp/member/

”パリ2024オリンピック競技大会 柔道日本代表” 静岡県浜松市出身。階級は 73kg 級。身長 170cm。段位は四段。得意技は「橋本スペシャル」と称される変形の袖釣 込腰、一本背負投。現在はパーク 24 に所属。

1:意識の変化と変わらぬ夢

小学生から柔道人生が始まり社会人として会社に所属して変わったことはやはりお金をいただいて柔道をしていることだと話す。結果も出さなければいけない、求められることも変わる、責任が伴うことで自分自身の中でも変化が起きた。今までは目の前の試合に勝つことだけに専念していたが強化選手から外れた自分を求めてくれた会社や応援してくれる方たち、仲間にも恩返しをしたいと自然と意識が変わっていったそうだ。柔道を始めた小学6年生から持ち続けていた「オリンピックチャンピオン」の夢は2017年に世界チャンピオンになった時に自分の中で現実的になったと話す。紆余曲折を経て世界チャンピオンになった時にはさぞ喜びが爆発したのではないかと、どういった時に勝利を実感したのかを聞いたところ、こちらの興奮とは裏腹に静かに答えてくれた。試合に勝った瞬間ではなく取材をされセレモニーも終え泊まっているホテルに戻り一人になった時に、過酷な練習やキツイ減量を振り返り、体のあちこちも痛い中で少しづつ嬉しい気持ちが湧き上がり

「やっててよかったなとジワジワと実感する瞬間ですね。この快感は言葉では言い表せない。」

と噛み締めるように話していた。我々は試合をする橋本氏しか観ることができないが、その裏には自分自身と戦い続け弛まぬ努力と相当な練習量の結果があり、試合の翌日からまた日々の生活に戻り過酷な練習が始まる。勝利を勝ち取った喜びを誰かと分かち合うよりも一人でじっくりと自分に「よくやった」と向き合い労う、それが自分がやってきたことへの自信や確信へと繋がる答え合わせのような大切な時間なのかもしれない。

2:目指し続けたオリンピックへの想い

成績も残し世界選手権でもメダルを獲っていたが東京オリンピックの代表選手選考から落ちてしまう。オリンピック代表選考は何か決められた試合に勝つなど明確な規定はなく、日本代表の強化スタッフによって総合的な評価で選出される故、歯がゆく納得ができない結果でもあった。アスリートにとってオリンピックを目指し全てを捧げる4年間に懸ける思いは計り知れない。当時29歳だった橋本選手もパリオリンピック開催の時には32歳11ヶ月、日本の柔道史上最年長での戦いとなる、自然と引退の二文字がよぎったという。ここからまた同じ努力を続けることができるのだろうか、モチベーションを保つことができるのだろうか、自問自答する中で思い止まったのは支えてくれる家族の存在だった。結婚もし子供も生まれ「自分の生き様や勇姿を見せたい」という気持ちとチームメイトや仲間の存在が大きかったと振り返る。当時、揺れ動く消化しきれない思いの中、仲間が東京オリンピックで活躍する姿をテレビで観て、居ても立っても居られない複雑な気持ちになったそうだ。家族と一緒にいたくない、仲間ともいたくない、だからと言って一人でもいたくない、
「だから、夜中だったんですけど走りに行きました」と笑っていたがどんなに悔しい思いだったのだろうと胸が締め付けられた。これだけの感情になったのは初めての経験だったからこの時にはもう次のオリンピックに向かって走り始めていたのかもしれないですねと静かに何かを噛み締めるように話してくれた。

3:次世代へのバトン

パリオリンピックの目標は優勝ですか?と投げかけると金メダルしか目指していないと即答であった。自分の全てを出し切り柔道人生に悔いのないように戦うことだけだと力強く答えてくれた。選手として明確な目標は言わずもがな、その意志と熱い気持ちは十分過ぎるほど話してくれた橋本選手は次世代にも柔道の楽しさを伝えたいと夢を託している。オリンピックが開催されるフランスでは「JUDO」はサッカーとテニスに次ぐ人気のスポールであるがその理由としてフランス人が柔道を習って強くなりたいというよりは柔道精神の核である「規律正しさ」や「厳格さ」に魅力を感じている人が多い。その反面、日本では減少傾向にある理由として辛い、過酷、怪我などネガティブな要素も含まれている。

橋本氏も柔道教室を日本や海外でも開催しているがそういった活動は別のスポーツでも行われているので正直、目新しさはない。だから橋本氏は自分が幼少期からどういった食事を摂っていたか、どういったトレーニングをしたかなど親御さんに向け無料でセミナーを開いている。年齢を重ねるごとに減量が難しくなる中で、橋本氏は32歳にして1ヶ月で7kg痩せられるそうだ。昔よりも楽に痩せられるんですと話すがそれには長い柔道生活の中で培った知識と経験の賜物であることは実証されている。自分の子供が何かを始めたいと興味を持った時に親が不安要素や懸念材料があれば他の選択肢を促すことは致し方ない。だが、逆に橋本氏の話を聞き親が興味を持てば子供も興味をつのは自然なことかもしれない。子供が楽しく学び、親は安心して学ばせることができる事はとても良い相乗効果であり、日本の文化や伝統を受け継ぐ素晴らしい活動である。

最後に、冒頭で橋本氏が話していたことを残しておきたい。

「東京オリンピックの団体戦決勝で日本はフランスに負けているんです。だからね、今年のパリオリンピックで金メダルを取り返します。僕はその日本代表のキャプテンをやらせてもらうんで面白いことになりますよ。」

自国開催で負けた雪辱を相手国開催で取り返す。なんともドラマティックで粋なのだろう。
昔に流行ったあのドラマのセリフのようだが、橋本氏は柔道の精神である。
「礼儀作法を重んじ、常に自分を律し、相手に敬意を払う柔道の教え」そのものに戦ってくれるだろう。6歳から自分自身と戦い、1対1で相手選手と戦う柔道家橋本氏の生き様が見れるパリオリンピックが楽しみである。

そして橋本選手と共に戦う日本代表の勇姿を多くの人に見届けて欲しいと強く想う。