GUEST INFORMATION

高石 賢一

有限会社KENKRAFT

有限会社KENKRAFT(ケンクラフト)代表取締役
https://kenkraft.net/shop.php/

1996年、東京都・神田に重機スケールモデル専門店「KEN KRAFT」を開業。オリジナル模型や企業向け特注モデルの企画制作を手がける一方、建機分野の取材・執筆・撮影も行い、著書に『重機の世界』。重機模型と実機に精通するスペシャリスト。

1:10トン越えの重機と最先端モデル

前編でも重機模型を紹介してもらったが、後編はさらにサイズ感が倍以上の大型重機の模型を持ってきていただき説明をしてもらった。まずは、前方に大きなショベルが搭載されボディーの後方はフェリーのデッキのような広さがあり、高さは9mと3階建ほどの高さがあるため運転席まで階段で登らなければならないこの重機は主に鉱山で使用され1度に70トンほどを掘削可能なほどにパワーもスケールも桁違いである。街で見かけるダンプが約8~10トンで模型も1/50スケールとは言え約8kgほどあるのでその実物の大きさは相当だと想像ができる。残2回りほど小さくしたものは採石場で使われることはあるが念ながらこれほどの大きさは日本では出番がなく見ることはできないそうだ。次は日本のコベルコ建機株式会社が手掛けるSK1300という主にビルなどを解体するときに使われる重機で、キリンのように長い首の部分が40mも伸び、先端はハサミやペンチのような形状の大型圧砕機が装着可能で9~11トンほどの物も持ち上げられる。カメラも搭載され運転席から角度も変えられるのだが高石氏曰く「壊すのにもセンスが必要」とのことで、むやみやたらに壊すのではなく、綺麗に早く安全に行うことが最も大切だと強調した。大型重機で切った鉄筋などが飛んできたら人の体に穴が開くほどの威力ゆえ、重機もそういったことに対応できる用意なっており、万が一のことを考え解体時には大きなシートなどで囲われカバーされているのは作業現場から外に飛び出したりしないようにしている。つまり、解体作業には高度な技術が必要であり、鉄筋の飛散防止などの安全対策が重要であるのだ。最後にドイツのプツマイスター社のコンクリート圧送車は、ミキサー車で運ばれたコンクリートをホッパーという箱に入れて押し出してポンプへ通って先端までいき40m先までコンクリートを圧送可能で主に地盤をコンクリートで固める時に使われる。最新式は30メートルの電源コードを使用し、440ボルトの電源に繋げ電気ポンプで駆動することでエンジンを止めた状態で使用できるためCO2排出を削減できると説明してくれた。重機も電気を使用する波は来ているが大型重機となると結構なパワーを要するため相当数の電力と出力が必要となりまだまだ課題は多いそうだ。

2:世界のケンとドイツ

プロフィールにも書かれている「世界のケン」の由来を聞くとTBSのクレイジージャーニーに出演した際に番組スタッフからそう紹介され「そのままもらいました」と笑って教えてくれたが、本人も言うように世界中の工場へや現場へ行きそれを元に模型を作り本も出した唯一無二の存在でありそう名乗ることは何の問題もなく納得である。世界的に重機で有名な国はドイツだそうだがその中でもリープヘル (Liebherr)が有名でクレーンやショベルカー、ダンプ、地盤改良用の機械などの重機はもちろんの事、冷蔵庫やワインクーラー、オーストラリアにはリゾートホテルを持つなど幅広い分野で多岐にわたる製品を製造し活躍する企業であるがリープヘル社は戦後に設立された珍しい企業だそうだ。戦前は戦車や兵器などを製造し所謂、軍事産業を担っていた企業が戦争が終わり平和な世界になり重機製造へとシフトチェンジする流れが多かったそうだが戦争で使われる兵器開発などの技術を世の中の役に立つこと、誰かの助けになることへと変わっていった背景はとても素晴らしいなと思った。

3:働く車

重機そのものにフューチャーしてきたが重機を扱い働く人たちは危険が隣り合わせであり想像以上に過酷であり同時にとても繊細で知識、感覚、センスがいる。重機を運転するには資格と免許がいることを知っている人は少なくないと思うがクレーン車を運転するには国家資格がいるそうだ。クレーンを運転する人=オペレーターと、A地点からB地点に運ぶものに紐をかける「玉掛け」を担当する人がいるのだが、重さも数キロから数トン、まっすぐな地点もあれば曲がっている地点もあるが重点は一点。その一点を見極め、オペレーターと玉掛けが息が合わないと成り立たず、下手すると大事故にも成り兼ねないミリ単位の世界である。痺れる作業であるがこの素晴らしさが伝わりきれてい無いからこそ高石氏は「重機ってかっこいいだろ?」と、話し教えてくれているんだと改めて思った。忽然といつの間にか知ら無い内に道路が出来、ビルが建つ訳ではなく当たり前ではない。造る人がいるからこそ、そこに存在するのだ。正直、人気の職業ではないかもしれ無いがハッと思わせる話を聞かせてくれた。ある会社に高石氏が取材に行った時に若いオペレーターが3人いたそうで「なんでクレーンのオペレーターになったの?」と聞くと「クレーンのオペレーターは花形なんです」と答えてくれたそうだ。働く車が好きだった少年は多くいるが、働く車を運転する人もカッコいいと憧れの存在になって欲しいと思い、きっと高石氏も嬉しかったたのだろうと思いが溢れたエピソードであった。

今年の目標として「世界のケンが地域を訪問する」という重機を紹介する企画を遂行する事と、自身が携わるポータルサイト「クレーンジャパン」の紹介をしてくれたが、4月にはドイツのミュンヘンで行われる大規模な展示会にも行くそうで高石氏のバイタリティは凄まじい。重機のようにパワフルでカッコいいと思わせ魅了するそんな大人に久しぶりに出会った気がする。これから先、街で働く重機を見たら今までよりも確実に見入ってしまいそうだ。できれば横で高石氏にこの重機はここがすごいんだよと解説をしてほしい、そんな気持ちにもなった。何より、実物の模型をお見せできなかったので神田にあるお店に行き素晴らしい模型たちを見ていただきたいのは言わずもがなであるが高石氏が最後に「1人でひそかに楽しんでいる人もいるけど、うちに来るとみんな友達になるのね。 重機を通じていろんな人と仲良くなるアナログSNS。アナログは楽しいよね」と優しく話していた。“アナログSNS”。SNSという言葉なのになぜか温かみを感じグッときたのは私だけではないはずだ。是非、足を運びリアルで語り合って欲しい。