GUEST INFORMATION
下村 尊彦
株式会社日生リビングシエスタ
株式会社日生リビングシエスタ 代表取締役
https://www.nissei-livingsiesta.co.jp/
東京都東久留米市に生まれる。大学卒業後、大手不動産企業株式会社アーネストワン、株式会社イントランスに就職父の体調不良がきっかけとなり、跡を継ぎ、前身となる日生販売株式会社に入社。
債務超過・リーマンショック等、数々の逆境の中、事業を建て直す。従業員をはじめ、お客様、取引先など、関わるすべての人に対し、常にフラットで誠実な会社であり続けることをモットーとしている。
1:不動産とアパレル
下村氏が取締役CEOを務めるHONEY MI HONEYとMAISON ELLIEについて簡単にご紹介をすると箕島美佳氏が代表兼デザイナーを務めるブランドで「HONEY MI HONEY」は女性のフェミニンとフェティッシュな美しさを引き出すファッションを提案し大人かわいいをコンセプトに30歳前後の女性をターゲットにした今年17期目を迎えるブランド、「MAISON ELLIE」は光という意味を持つ名前 ELLIE(エリー)という女性をモデルにし、ファッションを楽しむ大人をコンセプトにエレガントで上質なカジュアルを提案する年齢を重ねた女性が普段使いできるような、シンプルでスタイリッシュなデザインが特徴の40代前後の女性をターゲットにしたブランドである。前編で話を聞いた不動産や建築とは対極と言っても良いくらいの業種であるが、きっかけは下村氏の先輩の奥様が運営をされていたところ声がかかったことが経緯であり、下村氏は資産運営などの数字面や人材育成や採用や組織作りなどを担い自身の強みを生かしてサポートしている。ブランド自体は17年と長いが下村氏が参画した5年前はちょうどコロナ禍の大変な時期でもあり未知の世界への参画と苦労もあったが様々なことを乗り越えて現在に至る。筆者も長くファッション業界に身を置く立場としてアパレルで17年も続けていくことは容易ではないことは声を大にしてお伝えしたいがその秘訣を聞くと「お客様の流れを見ながら分析し変えるべきところを変えてきた」と答えてくれた。デザイナーの好みをカタチにしそれに共感するお客様があって初めて成立するが、それを押し付け続けても顧客は年齢を重ね好みも変わる、ましてや流れの早いファッション業界で新規も取り込んでいかないとなると簡単なようで非常に難しい。下村氏も「スピード感が全く違う、3~5倍それ以上であり、昨日の正解が今日の正解ではない世界」だと話していたが特に女性はブランド数や競合他社が多いのに加え、SNSの影響力なども踏まえてサイクルが早いと感じたそうだ。下村氏曰く、不動産は意思決定で購入を決まるがアパレルは感情の部分が大きいという分析や、アパレルはマーケティングに基づいてやればうまくいくという人もいれば、ブランドの顔となる人を立ててその人のファンを作ってブランド力を高める、今のアパレルはその2軸だという分析や、何がどういう要因で購買に繋がるかが見えにくい業種だと話していたが不動産と異なる点を冷静に見えている下村氏は視野が広く柔軟に物事を捉える人なのではと思った。
2:バランスとギャップ
自身も建築家でありものつくりという点や1つ1つに対しての拘りに関しては共通する部分は多いが、自分の好きなものだけを作ってそれが売れるとは限らない、かと言って売れるものだけを作ってもつまらない、そのバランスが重要だが今はマーケティングの影響が強くそのバランスをとりながらブランドの独自性を出せたブランドが勝ち残ると分析する。不動産業の日生リビングシエスタ社は未経験者を採用していると聞いたが実店舗を持つHONEY MI HONEYとMAISON ELLIEは商品を売り接客を担当するとても重要であり鍵となるスタッフの方はブランドの世界観が好きな顧客がスタッフとして応募してくることが1番多いそうだ。ブランドのファンがスタッフになることは世界観に共感し良い点も多い反面、様々なギャップを埋めることも課題となる。外から見た世界と当人になった時は表と裏と言っても過言ではない程に真逆になる、これはどの業界も同じかもしれないがアパレルは正にそのギャップが顕著である。好きな洋服を着て仕事ができるという理想と何時間も立ち続け接客をする肉体労働である点や時にクレームなどにも向き合う精神力、問題視されているアパレル業界の低賃金の中で新作を購入し身なりも整え常にお店の顔としてお客様へ憧れを持って頂くというプレッシャーなどギャップは出したらキリがない。唯一無二の本当のオリジナルが存在しにくくなっている世の中で、ネットではなく店舗で接客を受け誰から買うかどう携わるかか鍵となっている現代では、カリスマ販売員と持て囃された時代よりも店頭の販売スタッフは遥かに重要とされているのかもしれない。そのスタッフの大半は20代前半のZ世代だそうだが、スタッフにどう対応し寄り添っているのか、今の人たちがどういう考えで今後どうしていきたいのかを吸い上げそれに対してそれぞれにアドバイスしている点は不動産もアパレルも共通し、実際にやっていることを突き詰めると同じだと言うが、コミュニケーションの違いに戸惑い臆病になっているリスナーも多いはずである。人材育成を担う下村氏の対応は如何に…。
3:選択
所謂Z世代と働く下村氏は自身が同じくらいの年齢だった時と照らし合わせると今の子達の方が圧倒的に色々なことを考えていると話す。莫大な情報量が容易に手に入りでファッションも選択肢が多く我々世代に比べると選択肢が何倍にもなっている世の中で育った現代の人たちは自ずと感性が磨かれ更に自分らしさを求められ何を選ぶか何を選んだらいいのか選択肢が多い分、選ぶこと自体に慎重になっているそうだ。正解がないからどんな選択をしてもいいと自由を与えられると人は悩み迷う。「ずっと選択をしていると選ぶことに慣れるが、選んでこなかったまま大人になると“選んでこなかった人”になってしまう。」と面白い発想を話してくれたが洋服屋さんで接客をされることが苦手な人はこれに該当するのかもしれない。昔は洋服を選ぶにしてもせいぜい3個ほどの選択肢の中で1つを選ぶ簡単な選択であったが、今は30個の中からどうぞ何個でも選んでくださいと言われるほどに選択肢も正解も多い。選び正解を見出すことが苦手だから慣れ親しんだものに手が伸び足早に店を出る、接客をされるとどうしていいか分からないNOと意思表示が難しいのはもしかしたら自分が選択を迫られることを事前に防御しているのかもしれない。Z世代を含む現代の人たちは莫大な情報の中で感性が磨かれ育ってきている分、我々アナログ世代よりも遥かに優秀であることは事実で、その子達を3つの選択肢で育った我々がマネジメントする事は難しく、導く側が歩み寄り理解をした上でマネジメントをする、その質が問われ求められていると下村氏は分析していた。今までのノウハウのままで自分の経験だけでマネジメントを“する”という考え自体が間違っていると言われた気がして耳が痛い思いをしている人も少なくないはずだが、ごもっともであり改めざるを得ない部分でもあるのでしっかりと受け止めたいと思う。日生リビングシエスタ社のホームページをみるとまず初めに「いま、満足してますか?」という言葉が出てくる。もちろん満足している人もいると思うがYESと即答できる人はどれだけいるだろうか。満足とは何か?選択肢は無限にありその正解は人それぞれ異なる。衣食住の内の2つを手掛ける下村氏はその答えをもしかしたら導いてくれるのかもしれない。そんな都合の良い考えを馳せるほど説得力のある話を聞かせてもらった。そう感じてしまうのは押し付けるわけでもないでもなく、確かに!と自然と納得をし答えを教えてもらった気持ちになる人だからだろうか。家は安らぎを与えてくれる場所であり、行ってらっしゃいと見送り、おかえりなさいと迎える場所。うまく表現ができないが下村氏はどことなくそういう「家」のような人だと思った。