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青木 俊介

ユカイ工学株式会社 CEO

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ユカイ工学株式会社 CEO 青木 俊介

1978年神奈川県生まれ。 東京大学工学部計数工学科卒業、東華大学信息科学技術学院修了。 東京大学在学中に、チームラボ株式会社を設立し、CTOに就任。 その後、ピクシブ株式会社のCTOを務めたのち、ロボティクスベンチャー「ユカイ工学」を設立。

人が愉快になるようなロボットを製品化しているベンチャー企業「ユカイ工学株式会社」のCEO青木俊介氏を迎え社名そのものを表すような愉快な商品と共に商品が誕生した背景や機能、どのような人に求められ利用されているのか、青木氏の頭の中にあるコトについて詳しく聞いた。

1:見守りロボットBOCCOとセラピーロボットQOOBO

ロボットと聞いてどんなイメージをするだろうか。人によって様々な形を思い浮かべると思うが実際に現実的に活躍しているのは組み立てに役立ったり倉庫で荷物を仕分けしたりと生産性を高めるため用途に合わせ工場などで使われていることががほとんどである。しかし青木氏はロボットが家にいたら楽しいしなという思いから更に何をしてくれたら嬉しいだろうとイメージを膨らませ誰しもが1度はどのアイテムが欲しいかと議論を交わした事があるであろう“ドラえもん”の四次元ポケットのアイテムではなく、本来の目的であるのび太くんを一人前にすることに着目しモチベーションを上げてくれるような人生の相棒のようなロボットを作ろうと思ったそうだ。2015年に初めて製品化した「BOCCO」はまだスマートスピーカーが世の中に浸透していな時代にスマートフォンに繋げメッセージを送ると家にいる人に向かってロボットがメッセージを話してくれる機能や、センサーで誰かが帰ってきたことを感知するとスマートフォンに通知がいく機能を搭載している。きっかけは自身の甥っ子が小学校一年生でお留守番をしないといけない鍵っ子になってしまった時に寂しいだろうなとドラえもんの様に一緒にいてくれる相棒になってくれるロボットを作ろうと思ったそうだ。この見守りロボットは発売以降パワーアップし声も届けてくれる機能が加わり、子供だけではなく一人暮らしのお年寄りなどにも人気となった。誰とでもメッセージを送り合える時代だからこそ声のやりとりを大切にしたいという思いから新たにこの機能を加えたそうだ。これは人の感情に上手く作用している様で家族がお薬飲んでと言ってもうるさいわねと素直に聞き入れてくれなかったが可愛いお利口なBOCCOに言われるとはいはいと素直に飲んでくれるようになったという微笑ましいエピソードも教えてくれた。そしてもう1つ世界中で話題になっている尻尾のついたクッション型セラピーロボットの「QOOBO」は優しく撫でるとゆっくりと尻尾を振りたくさん撫でると喜んでブンブンと尻尾を振ってくれるなどその反応が非常に可愛らしく、ついつい膝の上に乗せずっと触ってしまうアイテムである。これは社員である北海道出身の女性デザイナーが犬が10匹以上いる様な環境で育ち東京で暮らす中でペットが飼えない状況になり、犬が身近にいなくて寂しいなとお家に尻尾のついた何かが待っててくれたらいいなという妄想から誕生したそうだ。尻尾の反応もそうだが犬を抱っこしているような毛並みなどにも拘りリアルに再現している。日本だけではなく世界中でも販売されており特にアジア圏で人気が高く、高齢者施設などの動物に触れる機会が少ない環境などでも利用されたりと多岐に渡って愛されている。

2:ぬいぐるみロボット「甘噛みハムハム」

もう1つ面白い商品を紹介してもらったのだが座り型の眠たそうな表情をし少し口が開いている愛らしいぬいぐるみの姿をした「甘噛みハムハム」で、赤ちゃんの甘噛みを再現し指を入れると噛む動作をするほか、指の太さによって噛む強さが変わるぬいぐるみロボット。ネーミングのインパクトもさることながらぬいぐるみの口に指を入れると甘噛みをするその特徴が斬新でどのような背景で誕生したのかを尋ねると子育て中のパパ社員が子供に甘噛みをされた時にとても幸せな気持ちになるが躾で我慢をしないといけないジレンマから発想を得て商品化に繋がったそうだ。ねむねむアニマルズというシリーズで犬、猫、熊、パンダ、カワウソの他、ディズニーのチップ&デールや銀魂のコラボシリーズもあったりと自分の好みから選びるのもとてもユニークだ。6割以上が女性のユーザーだそうだが、意外にも50代以上の中高年の層に人気で孫のような存在として愛されている。自分たちが欲しいと思ったものを作っているためターゲットは実は出してみないと分からないと青木氏は笑って話していたがターゲットを定めて商品開発をする従来のやり方とは一線を画す戦略もユカイ社ならではだ。

3:プログラミングとパソコンとの出会い

商品全てがとてもユニークであるがそもそも青木氏がロボットに夢中になったきっかけを尋ねると中学生の時に観たターミネーター2にエンジニアの人がAIを作成するシーンを観てかっこいいと思いプログラミングに興味を持ったそうだ。ロボットではなくプログラミングをしている人に憧れを抱きこういう仕事をしたいと思ったとはこれまたエピソードが面白い。とは言え、当時はインターネットもなく情報が少ない中でまずはパソコンが必要だということを知り親に頼んでみるもののゲームをするんでしょうと取り合ってもらえずビル・ゲイツって人がこういうのを作ったらしいとなど情報をプレゼンし続け1年かけ粘りに粘りようやく親にパソコンを買ってもらう。その後、念願のパソコンを手にした青木少年は雑誌に載っていたプログラムのソースコードを意味が分からないまま見よう見まねで打ち込むことからプログラミングを始める。しかし、今に比べてネガティブなイメージを持たれていた“オタク”と思われることが怖く周りにはパソコンを持っていることも隠していたそうだ。今でこそオタク文化は世界でも認知され地位を確立しているが思春期の少年にとっては隠すことが最善策であったのではないだろうか。しかし、自分の世界の中でプログラミングに没頭できたからこそ現在の青木氏の技術や発想力などが培われたのかもしれない。

青木氏のお話を聞く中で何度も出てきた言葉が「妄想」であったが発想ではなく妄想というところに私は着目したいと思う。想像する妄想はいつしか創造となり実際の商品となってユーザーの手に渡る。その商品もまた言葉を喋り人間なのではと妄想させ、撫でると反応する姿に動物であると妄想させるなどユカイ社の商品もとい青木氏の作り出すもの全ては幾重にも妄想が連鎖している。想像力や創造力…いや、やはり妄想力が卓越している人なのだと思うが、どの様にして現在の青木氏が確立されたのか後半で詳しく聞いていきたいと思う。