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久田 康弘

株式会社ELEMENTS 代表取締役CEO

https://elementsinc.jp/

1985年生まれ沖縄県出身。 慶應義塾大学法学部卒業後、2008年に大和証券SMBC株式会社(現・大和証券株式会社)に入社し、ITベンチャー企業のIPOコンサルを担当。 金融犯罪が起こるのは究極的にはお金と自分が紐づいていないからという学生時代の気づきがきっかけとなり、「自分自身を自分だと証明するのに、自分だけでは出来ない」という、当たり前のように思えて出来ないことを解決すべく、2013年12月に株式会社Liquid(現・株式会社ELEMENTS)を創業し、生体認証事業を開始。 現在は「自分だけの要素を知ることで、より自分らしい生き方を選択できる世界に」をビジョンに掲げ、個人認証と、個人の特徴を解析して衣食住におけるモノ・サービスを個人に最適化するソリューションを展開している。

2013年設立のAIや生体認証などの技術を使った新しいサービスを提供する株式会社ELEMENTS代表取締役社長の久田 康弘氏に、現代では生活の一部となっているAIや生体認証に携わるきっかけやこれからの課題など独自の個性的な視点と共に非常に興味深い話が聞けた。

1:起業の経緯

学生時代から数学が好きだったこともあり証券会社のAIを使ったシステムを作る部署に所属していたがリーマンショックを機にその部署がなくなりIT系の部署へと異動。IT関連の起業家を担当していたこともあり魅了的な人たちと接するうちに憧れを抱き異動後1~2週間で起業を決意したという。学生時代に読んだ犯罪を解くベストセラー本に犯罪の確率や足形や指紋などを数学を用いて犯人を特定し解決していく様に影響を受け生体認証に興味を持つ。まだ日本ではそういった生体認証を用いた企業はなかったが絶対に価値が出ると思ったそうだが、2013年に起業した当初はなぜそんなことができるのか、もっと大企業に依頼するなど門前払いをされ続ける。ニーズもなかなか見えない中、海外に目を向け東南アジアにニーズを見出し拠点をスリランカに移し実証実験を実施する。東南アジアを選んだ理由として日本とは違い新しいプレーヤーに対して友好的だったことも大きかったという。
その後、日本政府もベンチャー企業を応援する流れになり、総務省や経産省に支援され研究する資金を得ることができた。官民合同による資金支援や規制等に関する支援を行うために、IoTを活用した先進的プロジェクトを選定することを目的とした、経済産業省・総務省が連帯して取り組む「IoT Lab Selection」の第一回グランプリを2016年に受賞する。

2:好転したコロナ禍

当時はまだスマートフォンのカメラの解像度が低く顔認証をするにはかなり高度なセンサーが必要となり実現は難しかったが、iPhoneをきっかけに指紋センサーの値段相場がガクッと下がりこれはチャンスだと指紋認証のシステムをローンチをする。順調だった矢先、コロナ禍に突入し、一気に接触デバイスへの懸念が広がる。対面が当たり前の人ありきのおもてなし文化だった日本でも接触を控える傾向となり、日常のオンライン化がスタンダートとなり「生体認証とオンラインが非常に相性が良かった」と振り返る。コロナ前はAIを使用した無人のシステムは味気ないとされていたが当時は接触しないことが衛生的で安心と真逆の価値観を生み出した。リモートが普及しオフィスに人がいないことも増え、監視カメラの画像を解析した防犯はもちろんのこと、空調を自動制御しエネルギーの効率化なども実施。コンビニでは行動解析のソリューションを用い、来店客が購入に至らなかったがどの商品に興味を持ち、どの商品を手に取ったかなどを解析した情報を提供し、この商品のクーポンを送ったら購入に至るのではなど監視カメラはマーケティングにも幅広く活用されている。

また、3Dセンサーを組み合わせたら体全体も測れるのではとボディスキャナーを作りアパレルメーカーやフィットネスメーカーに提案。個人のパーソナライゼーションを数値化することによって、既存の服ではサイズが合わなかった人にもピッタリのサイズを提案することが実現できた。また、生成AIを使ったコーディネートの自動生成など多岐に渡り展開をしている。

3:個人情報保護と犯罪防止のバランス

生体認証が浸透し進化する中で課題としてついて回るのが個人情報問題である。コロナ以降オンライン利用者が増えたことで、クレジットカードの不正利用、銀行口座の不正送金などオンライン空間での犯罪が比例して増加している。強盗などは物理的な行動が伴うがオンラインはいつどこでもパソコン上で実行でき、犯罪者が犯罪そのものへの意識が低くなっているという恐ろしい事態が起きている。そういった犯罪者の不正データ公開によって防止、再発を防ぐこともできるが良くも悪くも我々は皆、個人情報に守られている為、容易に公開ができないことも課題となっている。

AIによって行動監視や個人情報漏洩など度々この問題については論争が繰り広げられるが何を守るか、何に守られているかを今一度考え、我々も批判だけではなく受け入れ変化していくことを忘れてはいけない。コロナ禍の前には考えも思いもしなかったことが現在はスタンダートになっているように現代では予測不可能な事態がいつ起きても不思議ではない。ルールはもちろん重要だが、進化の早い現代のスピードに即座に適応し変化を恐れずに一新することも同じく重要である。

そのためには今後どうするべきかを久田氏の視点を交えて聞いてみたいと思う。
後編へ続く。