GUEST INFORMATION
高石 賢一
有限会社KENKRAFT
有限会社KENKRAFT(ケンクラフト)代表取締役
https://kenkraft.net/shop.php/
1996年、東京都・神田に重機スケールモデル専門店「KEN KRAFT」を開業。オリジナル模型や企業向け特注モデルの企画制作を手がける一方、建機分野の取材・執筆・撮影も行い、著書に『重機の世界』。重機模型と実機に精通するスペシャリスト。
重機模型職人の「世界のケン」こと有限会社ケンクラフトの代表取締役高石 賢一氏をお迎えし、ショベルカーやダンプ、クレーン車など目にする機会は多いがどういった機能があるのか、どういった場面で使われているのか、直接的ではないが我々の生活に大きく関わっている重機について色々お話を聞かせていただいた。ワクワクするようなそのカッコいい造形をお見せすることができずもどかしいが、画像検索などをしながら是非、聴いていただきたいと思う。
1:道路を作る重機
神田に小売業のお店を構え、企業からのプロモーションや展示会用の模型など1点ものの制作を行いながら高石氏は積極的にメディアにも出ているが「自分が有名になりたいわけではない。重機ってかっこいいだろうと興味を持ってもらう機会と紹介をする役目」と話す通りに模型やメディアを通して重機に携わる皆さんが楽しめるアイデアを形にしていきたという思いがあるそうだ。まず重機と聞いてイメージするのは工事現場や建設現場で使われるショベルカーやダンプ、クレーン車などがパッと浮かぶが「今日も道路を歩き、車で走ってきたあの道路はどうやってできたと思います?」と面白い質問を投げかけてくれた。突如、道が出来上がる訳もなく作業をする人が居て、機械を使って出来上がる、ありがたいことである。そこで近年、砂利道を見かけることもなくなり道=アスファルトで出来ているが舗装工事でアスファルト混合物を均一に敷きならすアスファルトフィニッシャーという重機を紹介してくれた。ホッパーという大きな塵取りのような形をした前方部分に積んだアスファルトの合材を、車体の最後部にある舗装面の厚みや幅を調整するためのスクリードというアイロンの様な装置で、T字型のブレードを持つ機構を通して地面に敷き均す。更にその後にアスファルトを押し固めるロードローラーは、車体に取り付けられた円筒状の回転物(ローラー)を使って地面を均すことで、道路や建物の土台を整備する際に重要な役割を担っている。これらはたまに、ホカホカに温まった黒いアスファルトが敷き詰められながらゆっくりと走る重機を目にしたことがあると思うがまさにその重機である。その模型を見せてくれたのだが手のひら程の大きさでありながら精密に再現され本体の約1/50の縮尺で作られているのだが世界的にも同比率で作られているそうだ。実際の模型はミニカーなどに比べると大きい印象を持つがそれだけ重機は大きいということが分かる。そしてアスファルトを敷き詰め固め道路ができるのだが傷んだ時に登場する重機も紹介してくれた。路面切削機という急に日本語のネーミングであるがアスファルトやコンクリート舗装の表面を削り、道路の補修工事やリニューアル工事などに欠かせない重機で、車体中央部のカッタービットの付いたドラムが舗装表面を切削し、粉砕物は車体前面の象の鼻の様な長い形状のベルトコンベアによって送り出され、前方で一緒に走るダンプトラックなどに積み込んで搬出しその後に、切削された部分を再舗装する流れで作業を行う。どの重機も本体を見ていただきたいのだが交通に影響のない夜中に行われることが多くなかなか出会えないのも心をくすぐるポイントなのかもしれない。
2:洞察力と営業力
重機模型は元々、機械の製造メーカーが商品の立体的なカタログとしてプロモーション用に使ったことが始まりで、写真や動画では伝えづらい細部を立体模型にすることで機械の動きや構造がお客さんも分かりやすいことから作られた言わば営業ツールの1つであり一般の人は手に入らない物だった。しかしドイツやフランスで一般の人からの要望で販売が始まり今まで重機を知らなかった人にも広がり興味を示す人が増えたそうだ。実際に高石氏のお店にも男女問わずに子供から大人までが来店するそうだが「子供たちはちゃんとしたものを選ぶんですよ」と、面白い視点で話を始めてくれた。子供が重機に興味を持ったそのきっかけは本物をどこかの現場で観察をしている、つまりは観察力が養われている段階である。子供は1度興味を持つとそのターゲットからなかなか離れずまだ見たい帰りたくないとなるがそれを無理やり帰らせるのではなく「これの何が好きなの?どこに興味を持ったの?」と聞いてみて欲しいと高石氏は続けた。立ち止まって考え自分はこれの何が好きなんだろう、どこに興味を持ったのだろうと考え自分自身を深掘りし理解することは将来、必ず役に立つと伝えてくれた。本物の重機は何千万円もするのであれが欲しいと言われたら困るが模型は1~2万円で購入可能なので是非、我が子の洞察力を養うためと思ってリクエストに答えてあげてほしい。子供以外にも大人に人気の秘訣としてまずはその精密さだが元々はプロモーション用のツールだったので実際の作業同様に開いたり広がったり動いたりと細かく再現されている。見た目だけで機能性が再現されていないとお客さんにどうやって動くかの説明ができないため1/50の世界で忠実に仕上げている。「営業力とはいかに説明をしないで、いかにツールを使うかなんです」と深い言葉も聞けた。
3:はたらくクルマ
KENKRAFT(ケンクラフト)社を立ち上げたきっかけは、会社員を辞めこれからどうしようかと考えた時に60年代のアメリカのプラモデルで育ち大好きだったことからアメリカへ行き古いアメ車のプラモデルを探しそれを日本のコレクターに売ってたことから始まる。シカゴ、カルフォルニア、オハイオなど様々な所へ行き買い付けをし販売をしていた。当時も重機の模型は販売されていたがおもちゃっぽく高石氏は興味がなかったがポートランドの会社が鉄道模型と同じ高級素材の限定品を出し始め「これは欲しい」とポートランドの本社に行き売ってもらい日本で広告を出すと当時で15万円と高額でありながら売れたことでマーケット需要はあると確信し先輩方にこういった重機模型は売れるのかを尋ねると売れないと言われ、ならば自分が始めても先輩たちの邪魔にはならないと決意したそうだ。普通、売れないと聞けばやめようかなとなるはずだが「よしいける」と思うところがすごい。最初から売れないマーケットではないはずだ、みんなが知らないだけで売れない、ならば重機を紹介するのが自分の役目だろうと、まずは本物を知るところから始めるべく日本の最大手メーカーのコマツ(株式会社 小松製作所)へ声を掛け、アメリカの工場へと行き300トンを運べるダンプを作る様子を写真に納め取材し日本の片手部へ持って帰ると面白いと共感してくれ大人が読める「はたらくクルマ」を出版する。その後も数冊出版をされているが、実際に現場へと取材にも行き自身で見にいくバイタリティや源はやはり重機への愛と好奇心だろう。
重機について子供のような目で楽しそうに話し、今どこどこにあの重機が働いているらしいよと聞けば見にいく姿は心から重機を愛しより多くの人に知ってもらいたい熱意がひしひしと伝わった。後編はどんな話が聞けるのだろうか。楽しみで仕方ない。